架空戦記の時代:高木彬光から佐藤大輔まで(前編)

架空戦記の時代:高木彬光から佐藤大輔まで(前編)

書籍に「架空戦記」というジャンルがあります。
90年代を中心に多くの本が出版されました。

史実とは異なった歴史を描いた小説です。
戦争の推移・結果が史実と異なっていたらどうなっていたか?
「IF戦記」「バーチャル戦記」などとも呼ばれてました。

主として前大戦での日本の戦いを題材にしたものが多いですが、他には日本の戦国史や幕末史、さらには中国の三国志を舞台にしたもの、などもあります。

今のラノベに近いような感覚で、多くの読者を集めました。
私もその一人です。

この架空戦記の歴史に関して、主観全開で書きます。
今回は「前編」。

高木彬光

架空戦記の開祖は、作家の高木彬光が書いた本、

連合艦隊ついに勝つ~ミッドウェーからレイテ海戦まで~

この本ではないかと思います。
初版は1971年(私がまだ幼児の頃です)。

前大戦での日本海軍の戦闘の「IF戦記」です。

米軍の圧倒的な陣容の前に、しだいに苦境に追い込まれていった連合艦隊。だが日本海軍にも事態を好転させる転機となる戦いがあった。ミッドウェー海戦で艦上機の雷爆転装を行なわなかったら? レイテ沖海戦で、敵輸送船団を目前にして栗田艦隊が反転しなかったら……? 連合艦隊が、悲劇の戦艦大和が、“もう一つの悔いなき戦い”に挑む、戦記ロマン!!

私は中学三年生あたりで本屋で購入。
「面白え~~!」と夢中になって読んだのを覚えています。

高木彬光は推理小説の大御所で「神津恭介シリーズ」などが有名です。
彼は戦前派だけに、連合艦隊の激闘と敗北に思うところがあったのでしょう。

4つのIF

この本では、4つのIFを提示しています。

  • もし、ミッドウェー海戦で南雲艦隊が雷爆転装をしなかったら?
  • もし、第一次ソロモン海戦で第八艦隊が敵輸送船団を撃滅していたら?
  • もし、第三次ソロモン海戦に「大和」が参戦していたら?
  • もし、捷一号作戦で栗田艦隊の謎の反転が無く、レイテ湾に突入していたら?

前大戦の戦史をかじった人なら、誰もが感じる箇所でしょう。

何とも言えない運命感

結局のところ、この小説には何とも言えない運命感が漂っています。
いくら局部的な戦闘を勝利したとしても、戦争の勝敗そのものは覆せないのだ、と。

曰く「戦術的勝利は戦略の不利を覆せない」
米国の物量と国力の前には、あの結果は必然なのさ、と。

こういう感覚は、あの時代の作家に共通していたように思います。

「架空戦記」の黎明期

高木彬光の作品の他にも、架空戦記の元祖的な作品は幾つかあります。

全て中高生の頃に読みました。
どれも面白かったです。

が、豊田有恒・半村良・光瀬龍は基本はSF作家で、「架空戦記」の歴史シミュレーション的な性格は薄いように思います。

檜山良昭

架空戦記の人気を決定づけたのは作家:檜山良昭です。

豊富な戦史の知識を活かし、多くの架空戦記を執筆しています。

彼の主要な作品は以下の4つでしょう。

日本本土決戦

これが檜山良昭の架空戦記デビュー作であると同時に、彼の代表作です。

日本本土決戦~昭和20年11月、米軍皇土へ侵攻す!

昭和20年11月1日。南九州の沖は数千隻のアメリカ軍艦艇で埋まった。原爆製造の遅れた米国が、未曾有の規模で日本本土侵攻を開始したのだ!! 東京をめざし、怒涛のようになだれこむ米軍。首都防衛軍司令官・石原莞爾大将は、“秘策”を胸に迎え撃った……。 極秘資料を駆使し、一大スペクタクルで描く、“史上最大の決戦”!

あの戦争でもし「日本本土決戦」が行われていたらどうなっていたか?
冷徹にシミュレーションし、その悲惨な内容を小説として描いています。

あらすじには「石原莞爾の秘策」と書かれてますが、全般的に暗く悲しい内容です。。

逆転! 太平洋大海戦

前大戦において、日本海軍が真珠湾攻撃を行わずに、伝統的な戦略である「中部太平洋での艦隊決戦」を行っていたらどうなったか?

逆転! 太平洋大海戦~「連合艦隊」中部太平洋迎撃作戦

昭和十六年九月、山本五十六連合艦隊司令長官が、広島駅頭で暗殺された!長官の発想から生まれた真珠湾(パール・ハーバー)奇襲作戦は捨てられた。後任の長官となった米内光政は、「対米英蘭帝国海軍作戦計画」をもって対米戦に備えた。ついにハワイ沖で、伊16潜水艦が米戦艦に魚雷を発射、海戦の火ぶたが切られた! 潜水艦戦、航空戦を、壮大なスケールで描いたスペクタクル小説。

山本長官の暗殺から、史実とは異なった歴史が展開されます。

もともと日本海軍の対米戦略は、

  • 中部太平洋での迎撃戦・艦隊決戦
  • 南方攻略による長期持久体制の確立

この2つが骨子となっていました。

上中下巻の全3巻です。

大逆転! 連合艦隊ドーバー大海戦

この本、かなりSFチックな出だしです。
超常現象による日本艦隊のテレポーテーションから始まります。

大逆転! 連合艦隊ドーバー大海戦(1)~イギリス無敵艦隊撃破編

1941年5月、日本連合艦隊は日米決戦を想定して、北海道東方海域において演習に明け暮れていた。突如、連合艦隊の眼前に英国艦隊が現れ、一斉射撃を加えてきた! 超自然現象でポルトガル沖へ運ばれていたのだ。困惑する山本五十六司令長官。ヒトラーは、対英共同作戦を進めるが……。英独戦に巻き込まれた連合艦隊の激闘を描いた、長編スペクタクル力作!

前大戦初期の英独が攻防を繰り広げていた時期に、連合艦隊がドーバー沖に突如出現したらどうなるか?

こういうIF設定は仮想戦記の面白みそのもので、史実とは異なった歴史を真面目にシミュレートしています。

1~3の全3巻です。

大逆転!太平洋戦争を阻止せよ

檜山良昭の架空戦記の中で、個人的に一番好きな作品です。

大逆転!太平洋戦争を阻止せよ

“太平洋戦争は回避できた”と主張する大学助教授・西条秀彦のもとに、シミュレーション・ゲームに挑戦してほしいとの要請があった。二・二六事件、太平洋戦争などが起こった激動の昭和にタイム・スリップ! 首相となった西条は、陸軍の不信をかって、いきなり暗殺されてしまった……。戦争を阻止することは可能か? 小説の枠を超えた感動興奮の仮想現実小説(ヴァーチャル・リアリティ・ノベル)。

あらすじには「タイム・スリップ」と書かれてますが、厳密には主人公が「VRシミュレーション・ゲーム」に挑戦、という内容です。

戦前の歴史を振り返って、後付けで、
「軍部の横暴に屈せず、戦争に突入しなければ良かったのに」
「独伊と同盟を結ばずに、英米と協調すれば良かったのに」
と、言う人もいます。

ですが、当時の首相・政治家の皆さんは、

  • そんなことは言われなくとも分かっている
  • 国内の政治・経済状況、海外情勢、選択肢が限られていた
  • あの時は、ああするしか無かった

と述べるでしょう。

あの時代の限られた選択肢の中で、最適な道を進むことの難しさを描いた小説です。

おそらく檜山良昭自身、何とも言えない鬱憤の中で書いた作品だと思います。

SFと架空戦記との違い

SFと架空戦記の大きな違いは何か?

例えば、小説のストーリーとして、
「現代の海上自衛隊がタイムスリップして、前大戦時の激戦のさなかに飛び込んでしまった」
と、しましょう。

SFの場合は、そういう状況に至るまでの過程をしっかりと描写します。
何故、タイムスリップが起きたのか?その原因は?

ところが、架空戦記の場合は、その過程をすっ飛ばします。
ストリーが重要なのであって、そこに至る過程は軽視するか無視します。

まあ、こういうところは今の異世界系ラノベとよく似ていますね。

何故、異世界に転移・転生するの?その原理は?
どういう必然性があって異世界に転移するのか?

異世界系ラノベもこの過程を軽視するか無視します。
原理なんかをくどくど描写するより、その後のストーリーが重要というわけです。

次回予告

次回「中編」では、川又千秋谷甲州を取り上げます。

谷甲州の「覇者の戦塵シリーズ」は、前大戦を技術の視点から見た異色の架空戦記です。

そのうち書きます。


珠さんのイラスト

おいおい、このブログは「WEB関連がメイン」だよな?
どうしてこうなった!?

創ken

現代の忙しい大人には、空想の翼で飛翔する時間も必要なわけですよ。

珠さんのイラスト

何を言ってるんだ、君は?
・・・まあ、たまには良いか。
書きたいものを書くのがブログの楽しさだしな。

創ken

いや、架空戦記なんてニッチなネタすぎて、
読者がいるのか少し心配ではあります(^_^;)

珠さんのイラストページ