自分が読んでみて大変面白かったライトノベル(ラノベ)をご紹介。
今回は「その7」。
タイトルは、
『サムライ転移~お侍さんは異世界でもあんまり変わらない』
です。
異世界系ラノベの軽さと、硬派な武士道物語が入り交じった異色の作品です。
目次
ラノベ的異世界 + 武士道
これはラノベ的異世界と武士道の異種遭遇記です。
主人公の名前は「黒須元親」。
おそらく戦国末期から江戸時代初期あたりの人物。
彼は武士の家の三男に生まれ、厳しい父親に育てられます。
剣の天稟があり、17の特に武者修行の旅に出発、10年間も諸国を回っています。
あるとき、彼は山道を歩いていて突如、異世界に迷い込みます。
あらすじ
全力で戦うことのできる相手がどこを探しても見当たらず、武者修行中の黒須は退屈していた。『どうか見たことも聞いたこともない難敵と巡り合わせて下さい』と、大して信じてもいない神仏に祈りを捧げるほど──。
そんなサムライは、いつの間にか異世界に迷い込んでいた。黒須は魔物に魔法、ダンジョンなど、未知の存在に心躍らせながら、己の武芸をぶつけていく。
これは、武士道を曲げずに異世界を斬り進むサムライの血気盛んな冒険譚!
主人公は超硬派
主人公の黒須さんは硬派です。超硬派です。
本作に恋愛要素など一切ありません。
ただ己の道を歩むのみ!
これでライトノベルとして成立するのかと他人事ながら思いますが、いやいや心配ご無用。
硬派な中に、適度に緩いラノベ要素を織り込みつつ読ませてくれます。
物語の2本の軸
この物語には2本の大きな軸があります。
①異世界の衝撃とカルチャーショック
②武士道
異世界の衝撃とカルチャーショック
現代人ならば「異世界」という概念を、アニメや小説を通して知ってる人も多いと思います。
しかし、黒須さんにはこういう常識は皆無です。
外国の存在すら聞いたことがあるのみ。
外国人は一度見たことがあるのみ。
ましてや人間以外の”人種”や、魔物なんて知るわけ無いです。
現代的常識やラノベ常識が皆無のサムライが、異世界に紛れ込んだらどうなるか?
ゴブリンの村に仰天
最初、異世界の森に紛れ込んだ黒須さんは、目を疑います。
植相がガラリと変わり、見たことの無い派手な虫や小動物が徘徊しています。
・・・ここは何ぞ?
しばらく歩くと粗末な集落に遭遇しました。
その集落の人は異相で、背は小さく、痩せこけ、病的な緑の肌をしており、腰には粗末な布を巻くのみ。
家は超貧相で掘っ立て小屋と変わらない。
見ると、彼らは捕まえた動物の肉を、嬉しそうに下品にも手づかみで食べています、
たまに「ギャッ!」「グワッ」などと意味不明の奇声を上げています。
黒須さんは、この「小さい緑の村人」たちに案内を請おうとしますが、村人は集団で襲ってきました。
やむなく、黒須さんは「村人」たちを剣で殲滅してしまいますw
・・・まあ、典型的なゴブリンとの遭遇ですな。
彼は最後までそれに気づきませんでした。
武士道
と同時に、この物語に奥行きと風韻をもたらすのは「武士道」です。
黒須さんは語ります。
我ら武士は、己が護るべき誇りのために如何にして死ぬかを追求する。
いつか必ず来る死ぬべき瞬間のために、その日その日を精一杯に生きる。
今日死ぬことになっても迷うことがないように、全力で生きるのだ。他人に何を言われようとも、自らの武士道に恥じぬ生き様ができてるかどうか。
武士の有り様とは、究極的にはその一点に尽きる。志を持って臨めば成し得ぬことなど何一つない。俺はそうやって生きてきた。
・・・「武士道」とは超ストイックな規範ですな。
冒険者との出会い
ゴブリンを殲滅した黒須さんは、そこで魔物に苦戦する冒険者パーティーを助けます。
それが縁で彼はパーティーの一員に迎えられます。
リーダーのフランツ。
盾役のドワーフのバルト。
魔術師のパルマ。
弓使いでハーフリンクのマウリ。
リザードマンのタイメン(2巻後半から加入)。
異世界人から見た黒須さんは戦闘好きの「狂戦士」のイメージですが、このパーティメンバーとの交流は心温まるものがあります。
戦闘・武器・戦技の描写
おそらく作者氏は、武士の戦技や武器に相当の知見があるのだろうと思います。
戦闘シーンにそれは感じられます。
様々な武器への言及。
あるいは「捕縛術」の描写。
さらには、黒須さんの歩行に関する描写、いわゆる「ナンバ」など。
確かにナンバのような歩き方していたから、異世界でも目立つでしょうね。
物語と伏線
この物語は1巻が「サムライ in 異世界」みたいな序章。
2巻が騎士道との邂逅編。
そして小説やアニメのお約束で、3巻から物語は一気に急展開します。
あと、伏線も随所に見られます。
- 黒須さんの身体の欠損はなぜ治ったのか?
- 魔術適正調査時の謎の女性の声
- タイメンが連れてきた馬の挙動
- 不気味な魔術師ギルドのリーダーの言動
この伏線を、作者氏はどう回収するつもりなのか?
楽しみです。
総評
ラノベのお約束である異世界や冒険者に、超硬派な「サムライ」が参入。
この両者の対比が面白いです。
黒須さんは、江戸初期に成立した武士道の規範を持つ共に、鎌倉武士のようなバーサーカー的「狂戦士」の側面も持っています。
彼の武士道はいささかも揺るぎません。
積み上げてきた心・技・体で以て、戦いの中で壮絶に死にたいのだ。
剣を持たぬ者からすれば理解し難い思想だと思う。
自らの生命の維持のために生き易く生きるのではなく、毅然として死ぬために生きる。戦後日本が真っ青な倫理感。
また、文中には度々、黒須さんの語りが入ります。
漢文混じりの古風な語り口が心地良く感じました。
久々に何度も読み返した面白い&異色のラノベです。
現在、3巻まで刊行中
物語は現在(2025/11/25)3巻まで刊行されています。
3巻共にKindle Unlimitedに加入してると無料で読めます。

普通、ラノベは2巻か3巻で打ち切られることが多いのですが、作者氏の X には「サムライ転移4巻執筆中」と載ってますね。

君、映画でも異種格闘戦の作品って好きだろ?
「カウボーイ & エイリアン」みたいなw

・・・あんなキワモノ映画と一緒にしないでください!
本作は風韻があって読み応えがありますよ(^^)v


























異色というか、ラノベにあるまじき作品だよな(良い意味で)。